vol.3 どっこい、ニューヨークは生きている!
サンフランシスコを朝11時5分に出発、映画「グリンチ」を見て、
食事をしたらあっという間に、あと数分でニューヨークへ到着だとアナウンスが流れた。
到着時刻は夜7時19分。さすがに辺りは真っ暗だ。
そうか、いよいよだ。
とうとう私はすでに姿を変えてしまったであろうニューヨークへたどり着くのだ。
ちょっとお腹の底がキュンとなった(いやいや、お腹がすいていたわけではなく)。
今までの着陸なら、長いフライトのあとの開放感が待っている。
でも、今回は違う。テロ直後という深刻な気分をそのまま持ち込んでしまうのだ、きっと。
そして、そのままの気分で現場へ足を運んでは、私もその大きな墓場の前に立ち、
親族では無いまでも一人の人間として、悲しみの涙をこぼすに違いない。
そう、シナリオはもうどこかで出来上がっていた。
その時だった。誰かが「OH !」と声を上げた。
輝いていた! 小さなオレンジ色の無数の光が集まって、時には線を描いて
街の形を作っている。橋、道路のライト、レンガ色の町並みを暖かく
照らす街灯、それらが以前のまま、そこにあった。
今度はお腹の底からふつふつと、何かが湧き上がってくる。
ナンだろう、このふくふくと沸いてくる、あったかいものは!
「すごくキレイ!」
隣に座っていた小さな少年が興奮しながらそう言った。
彼は、サンフランシスコから乗ってきた。
家族といっしょにニューヨークへ帰るのだという。
つややかな褐色の肌に長いまつ毛の黒い瞳。
機内食のとき、家族全員分のスペシャルミールを
あらかじめオーダーしてあったところをみると、
ムスリムなのかもしれない。
「そうやね、すごくいいね。ほら、あのオレンジ色、あったかい色だね」。
英語が堪能では無い分、大振りなゼスチャーを交えながら
私もそう言って外を指差し、彼ににっこり笑いかけた。
ムスリムだって仏教徒だって、誰だって、
ニューヨークに住み、また、そこを目指す者たちの思いはみな同じ。
こうやって、ひとつの飛行機に乗り合わせ、隣同士になった
たったそれだけの縁だけど、ニューヨークを愛する思いは一緒なのだ。
そして、その到着地であるあの街は、
テロ、飛行機墜落事故、いろんなことが起こっても、
どっこい、力強く輝きを放っていた。
〜大丈夫、ニューヨークは生きてるよ!〜
それが私に向かって投げかけられた、
ニューヨークからの再会の挨拶。
なんだかほんと、ガッツポーズしちゃいたい気分だった。